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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)445号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人豊水道雲、高屋市二郎の上告趣意第一点、及び弁護人今西貞夫の上告趣意第一点について。

原判決が、判示第一事実において判示報告義務の対象とした物件は、被告人会社が、その設立準備中に、同会社の目的事業たる水産業務に必要なる資材として、広島県から正規の手続を経て払下げを受けたもの、又は同会社に対する現物出資として広島県から正規の手続により給付を受けたものであること、しかして、被告人鈴川貫一、同石橋豊徳は同会社の発起人として同会社の設立に関与し昭和二二年一月二五日商工農林省令第二号指定生産資材在庫調整規則が公布された当時右会社の発起人として右各物件を所有保管していたことは、原判決の確定するところであり、原判決挙示の証拠によれば、右の各事実を認めることができる。

しからば被告人等は同規則第三条にいわゆる「業務に関して」同規則所定の「指定生産資材を所有する者(以下事業者という)」に該当するものといわなければならない。これと同旨の判断を示した原判決は正当である。又、当時被告人等において以上各事実についての認識を有していたことは、原判決の証拠上明らかであって、たとえ被告人等において、右発起人としての本件物件に対する所有権関係の法律上の性質について、明確な認識を欠いていたとしても、前記規則第三条所定の報告義務違背の罪責を免れることはできないのである。論旨は理由がない。

弁護人豊水道雲、高屋市二郎の上告趣意第二点乃至第五点及び弁護人今西貞夫の上告趣意第二点について。

所論原判示第二の(一)の事実について、原判決の説示するところをその全般に亘って検討すれば、原判決の趣旨とするところは、右取引は現在タンクの形体を成して存在している鋼板を鋼板として売買したものであるとするにあることが理解される。即ち、右鋼板は、現に「タンク」なる加工物を形成しているのであって、これが解体前の取引であるから、之を法律的に観察すれば一応「タンク」なる物の取引と解しなければならない。従って、原判決が「タンク二基の取引をなし」と判示したのは正当である。しかしながら、買主の経済上の目的は、これをタンクとして使用しようというのでなく、その素材を為す鋼板を取得するにあり、売主もその意を了し、更に、右タンクの素材中一部、薄物の鋼材及び骨核等はこれを売買の目的物から除外してこれを自己に保留し別に会社手持ちの厚物鋼板若干をその取引の目的物に附加し結局、鋼板合計一、二二〇屯を代金屯当り三、二〇〇円として売買した事実は原判決の確定するところである。かかる契約関係を私法上いかに理解するか。豊水、高屋両弁護人論旨第四点主張のごとく、これを売買と交換の性質を有する一種の混合契約と解するか否かは、しばらく措き、原判決はかかる取引に対して、物価統制令に関する法規を適用すべきかどうかの見地から考察するときは、右取引の目的物については故鋼板の統制額に関する規定の適用ありと解すべきであると結論しているのであって、この解釈は正当である。

従って、原判決は、もとより以上の趣旨による一個の売買契約を認定したものであることは明瞭であって、原判決には矛盾する二個の犯罪事実が同時に認定せられているとの前提に立つ同論旨第二点はその前提においてあやまりである。又タンク二基の素材中薄物骨核等を除き他の鋼板若干を加えて取引したとの原判決認定の事実はもとより、本件売買の目的物となった鋼板について、判示統制額に関する規程の適用ありとするに何の妨げとなるものでなく、むしろこの事実から見ても、本件取引の真の目的は、タンクの素材を成す鋼板にあったことが明らかである。従って、同論旨第三点はその理由がない。さらに、原判決挙示の証拠によれば、如上の趣旨において本件タンク二基の売買がなされた事実を認定することができるのであって、同論旨第四点は、要するに原判決の証拠の判断及び事実の認定を非難するに過ぎない。又原判決の確定するところによれば如上本件取引の実体については、売主たる被告人側においても、その認識のあったことは、原判文上明らかであるから、原判決が被告人等に対して判示罰則を適用したのは当然であって、同論旨第五点は、本件取引は、その実体において鋼板の売買である事実を無視して、専らタンクの売買であるとの点に立脚して、原判決を非難するものであって、その理由のないことは前段説明するところによって明瞭である。

弁護人今西貞夫の論旨第二点の理由のないことも、如上説明するところにより明らかである。

弁護人今西貞夫の上告趣意第三点について。

原判示第二の(五)の事実について、被告人上村忠彦は、判示の如く、佐藤友行と共謀したものである事実は原判決挙示の証拠から認められるのであって、論旨は畢竟、原審の専権に属する証拠の判断、事実の認定を非難するものに過ぎず、採用の限りでない。

同第四点について。

原判示第二の(六)において、原判決の確定するところは、被告人上村忠彦、同石橋豊徳は、共謀の上、被告人西日水会社のために、その業務に関し、同会社所有にかかる泥油十万立を、赤瀬兼雄に交付し、その対価として、同人から軽油三万三千四百立の交付を受ける契約をし(その交換の比率を泥油三本と軽油一本の割合と定め)かつ右泥油の交付を了したというのであって、右の事実殊に右交換が会社の業務上為されたものであることは、原判決挙示の証拠上認められるところであり、一般消費者同志が、業務に関係なく、その必需品を個々に交換するがごとき場合とは、全然その趣きを異にするのであって、他に右交換に関し物価統制令一三条所定の「正当の事由」のあることは、原判決の認めないところであるから、原判決が右事実に対し同令一三条の規定を適用したのは正当であって、論旨は理由がない。

よって、刑訴施行法第二条、旧刑訴四四六条に従い、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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